【空想幾何学小説】
作 ・ 久慈 誠

『うさぎが好きなたぬきさん』

たぬきさんはうさぎさんのことが好きです。でも、うさぎさんはたぬきさんのことをそれほど好きではありません。たぬきさんはうさぎさんが自分のことをそれほど好きではないことをうすうす気づいているので、自分がうさぎさんのことを好きだということを隠しています。でもうさぎさんはたぬきさんが自分がたぬきさんのことをそれほど好きではないためにたぬきさんが自分のことを好きだだということを隠していることをなんとなく気がついているので、うさぎさんはたぬきさんにときどきちょっとだけ好意を寄せているような素振りを見せたりします。うさぎさんが好きなたぬきさんは、うさぎさんが時折自分に向ける好意をそのまま素直に受け取って良いのか、あるいは自分がうさぎさんのことを好きだけどうさぎさんが自分のことを好きではないことを知っていて自分がうさぎさんのことを好きだということを隠そうとしているのをうさぎさんは知っていて、かわいそうに思ったうさぎさんが自分に好意を寄せる振りををしているのであれば、それは自分が余計惨めになるので、もしそれがホントだったらうさぎさんのことを今ほど好きでいられなくなるかもしれないなぁとたぬきさんが思っていることをうさぎさんは知りません。


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