リトル・ダッキー

『現像』
 
  ダッキーとあなたがお風呂に入っていると、脱衣所の方でスルスル、スルスルという物音がしました。
「え?なにあれ。ダッキー、なにあれ」
「作者だよ。写真の現像するんだって」
 
  スルスル、スルスル。真っ暗闇で作者は一心にフィルムをリールに巻き付けています。
 
「おーい、そこの人。なにしてんの?」
  作者は、一瞬顔を上げましたが、またフィルムに注意を集中させました。
「だから…作者だって!マイクロ小説の…。写真の現像するんだって、さっきから言ってるじゃん」と、ダッキーが言うと、「知ってるわよ!別に、声くらいかけたっていいでしょ!めったに話す機会なんてないんだから…」とあなたも声を荒げて言い返します。
 
  スルスル、スルスル。カタ、コト。作者は、息をつめてフィルムをリールに巻き取り、最後に端にくっついている細いパイプ状の芯をパシッとハサミで切り落としました。
 
  あなたとダッキーも、黙ってそれを見つめます。
 
  リールをタンクに収め、蓋をすると、作者はようやく肩の力を抜き、「ふうぅっ」と大きく息を吐きました。
 
「マイクロ小説、書かないのかな…」
  ダッキーは、寂しそうにつぶやきました。
「もっと書けば良いのにな…」
「最近書いてないみたいね…」
  あなたも、じっと自分のヒザを見つめています。
 
  パシュッ。
  フィルムの芯についたテープを勢い良く剥がすと、暗闇にポッと青白い光が一瞬浮かび、作者の満足気な顔をわずかに照らし出しました。

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