リトル・ダッキー

『麻薬撲滅キャンペーン』

「ねぇ、MDMAってなに?」

 リトル・ダッキーはちいさなあひるのおもちゃです。
あなたがお風呂に浸かって音程のあいまいな鼻歌を歌っていると、ダッキーがこう聞いてきました。

「MDMAっていうのはね、化学薬品から合成される非合法ドラッグのことよ。『麻薬および向精神薬取締法』の規制対象になっているわ」
「なるほど、一錠四千円程度で手に入り、若者を中心にその服用の手軽さから都市部を中心に広がっている覚醒剤のことをMDMAっていうんだね?」
そう言うと、ダッキーは充血した目をゴシゴシとこすりました。

「やけに詳しいわね。ダッキー、やったことあるんじゃないの?」
「そ、そんなんじゃないけど…」と口ごもると、チラッと窓の外を見ました。
「…その、MDMAが、別名『エクスタシー』とか『セックスドラッグ』とか呼ばれていて、服用すると気分が高揚し性欲が高まることを知ってたからって、使ってみようとは思わないよ」
そう言うと、ダッキーは落ち着かないようすで視線をあちこち動かしました。

「そういえば…」あなたは、ダッキーを見つめたまま話を続けます。
「私の友達の知り合いに中毒者がいて、3度目逮捕された時は肌がガサガサで死人の色みたいになって、食欲もなく眠ることもできずに下痢と便秘の繰り返しでやせ細って、視力も落ちて髪も抜けて歯もガタガタになって、妄想と幻覚で引きこもりになって、一日中ブツブツと独り言をつぶやいていたわよ」

「へ、へぇー、そうなんだ…」

 ダッキーは上ずった声でそうつぶやくと、そっと読者の方を覗いました。


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