リトル・ダッキー

『ダッキーの大冒険』

 リトル・ダッキーはちいさなあひるのおもちゃです。
  ある日、ダッキーは思いました。
「この平穏な日常から離れて、冒険でもしてみたいな」
 
  そして、ダッキーは冒険の準備として綿密な計画を立てました。また冒険の最中に起こるかもしれない障害や問題を想定し、それに対する様々な解決策も書き出しました。日々のトレーニングとバランスの取れた食事を続けることで体を鍛え、いよいよ冒険決行の日を待つだけになりました。
 
  あなたは、いつも一緒にいるダッキーがこんな冒険計画を練っているとも知らず、いつも通りにお風呂に入ろうとしました。
「あ、いけない。お湯入れすぎちゃった」
  あなたがこう呟いて蛇口をキュッと閉めた時、ダッキーの目がキラリと光りました。
 
「決行は、今夜だ」
 
  脱衣所で服を脱ぎ、あなたが「うぇっ、ういぃぃぃー」というおっさんのようなうめき声と共に浴槽に浸かろうとすると、いっぱいになったお湯が溢れ出しました。
  ダッキーは頭の中で何度も何度もイメージトレーニングをしたとおり、溢れるお湯と共に浴槽を脱出し、洗い場の床をすべり、洗面器の脇を通り過ぎ、石鹸ケースに「コツン」とぶつかりました。
 
「アラアラアラ」とおばさんのようなリアクションで、あなたは流れていったダッキーを拾い上げて、もう一度浴槽に戻しました。

  湯船に浮かぶダッキーは、今しがた完璧なまでに遂行した大冒険劇を頭の中でもう一度思い出しながら、達成感に酔いしれていました。
 
「やっぱり、冒険は良いよな」とダッキーは思いました。
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