リトル・ダッキー

『ダッキー、飛行機に乗る』

 リトル・ダッキーはちいさなあひるのおもちゃです。
 
「ダッキー。狭くない?大丈夫?」
「大丈夫だよ」
  ダッキーはポケットの中から答えました。
 
  今、あなたとダッキーは飛行機の中にいます。
  本当はダッキーの座席も用意したかったのですが、チケットカウンターの従業員に「あひるのおもちゃ用のシートはありません」と言われたので、仕方なくダッキーはポケットの中での移動となったのでした。
 
  離陸してからしばらくすると、添乗員が飲み物を配りながらあなたの席にもやってきました。
「何かお飲みになりますか?」
「それじゃ、お水を下さい。あの…バケツで」
「バ、バケツですか?バケツはちょっと。大きめの皿でよろしければ…」
「あ、じゃそれで良いです」とあなたが答えると、添乗員はしばらくしてから水のたっぷり入ったボウルを持ってきました。
  あなたは、さっそくそこにダッキーを浮かべて泳がせました。
  いつものお風呂に比べたら小さめですが、それでも水の中で足を伸ばせたので、ダッキーは嬉しそうです。
 
「ダッキー。雲の上だよ、私達。雲、見える?」
  あひるのおもちゃに話し掛けるあなたを、隣の席のおじさんが不思議そうに見ましたが、声はかけてきませんでした。
 
  一度だけ、フライト中に飛行機が揺れて、ダッキーの水がこぼれた時、隣のおじさんが黙って拭くのを手伝ってくれました。
 
「あの、お客様…」と、さっきボウルを持ってきてくれた添乗員が話し掛けてきました。「もうすぐ着陸ですので、お荷物は上の棚か、座席の下にお入れいただけますか?」と聞きながら、ちらりとダッキーの浮かんだボウルを見ました。
  あなたが何のことだか分からずに、しばらく添乗員を見つめていると、その添乗員は顔を真っ赤にしてどこかへ行ってしまいました。

 飛行機を降りる時、借りたボウルを返そうと先程の添乗員を探しましたがどこにも見つからなかったので、そのままダッキーを浮かべながらバッゲージ・クレイムに向かいました。スーツケースを待つ間、ダッキーはとても気持ちよさそうにボウルの中を泳いでいました。


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