リトル・ダッキー

『ダッキーと囚われの姫』
 
  カシャン、カシャン、カシャン。
  手作りの「甲冑」を身に着けたダッキーが風呂場に入ってきました。
  浴室には、汚れたレンガが乱雑に詰まれ、萎れた雑草があちこちに散らばっていました。
「なんかさー、まだ熱っぽいよ、僕」
「しーっ、ダッキー。もう始まってんのよ」
 
  リトルダッキーは、ちいさなあひるのおもちゃです。今日はあなたと二人で考えた「ヒーロー物」のストーリーのはずなのですが……。
 
「また今度でいいんじゃない?二人ともまだ風邪治ってないんだから」
「いいから、早くセリフ、セリフ」
「えー。もう…。コホン。あー、麗しの姫君よ」
「その声は、ダッキオ。私を助けに来てくれたのね」
「もちろんさぁ。一万里の彼方から、白馬にまたがり、竜を退治しー……」
  そう言いながら勢い良くおもちゃの槍を振り上げたダッキーでしたが、低い天井に槍先がゴツンとぶつかり、バランスを失ってレンガの瓦礫の山に頭から突っ込んでしまいました。
  うっとりと役に入り込んでいたあなたは、崩れたレンガに足を挟まれ、「イッテーーー!」と洗い場に転がり落ちました。
 
  雑草と汚れたレンガに囲まれ、薄れゆく意識の中であなたは、「またこんなオチかよ」と、一人でつっこみました。

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