リトル・ダッキー
『ミドル・ダッキーの大冒険』
ミドル・ダッキーは、くたびれた中年のあひるのおもちゃです。
いつも、あなたのお風呂に、ダルそーに浸かっています。
ダッキーは冒険の準備として綿密な計画を立てました。
「え?ほんと?冒険行けるの?」
また冒険の最中に起こるかもしれない障害や問題を想定し、それに対する様々な解決策も練り上げました。
「うん、うん」
日々のトレーニングとバランスの取れた食事を続けることで体を鍛え、そしていよいよ冒険決行の日を待つだけとなりました。
「うわー、どうしよう。ホントに冒険だよ。興奮しちゃうなぁ」
ダッキーが冒険の用意をしていたと知らないあなたは、いつも通りにお風呂に入ろうとしました。
「あれ、ちょっと待てよ?これって…?」
「あ、いけない。お湯入れすぎちゃった」
あなたがこう呟いて蛇口をキュッと閉めた時、ダッキーの目がキラリと光りました。
「あれ?知ってるぞ、このストーリー。前にどこかで読んだことがある……」
「うぇっ、ういぃぃぃー」というおっさんのようなうめき声と共にあなたが浴槽に浸かると、いっぱいになったお湯とともにダッキーが流されていきました。
洗い場の床をすべり、洗面器の脇を通り過ぎ、石鹸ケースに「コツン」とぶつかったダッキーを、あなたは「アラアラアラ」とおばさんのようなリアクションで拾い上げました。
「あ……、思い出した…」
湯船に戻ったダッキーは、今しがた完璧なまでに遂行した大冒険劇を頭の中でもう一度思い出しながら、達成感に酔いしれました。
「リトル・ダッキーのパクリだ、これ……」
しばらく寂しそうなミドル・ダッキーでしたが、さっきの『冒険』を思い出したらなんとなくだんだん愉快になってきて、しまいには上機嫌でシッポを振りながらこう言いました。
「やっぱり、冒険は良いよな」
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