リトル・ダッキー
『ミドル・ダッキー』
「おい、そこのほへ顔!おいってば!」
あなたが、今日も真夏には暑すぎる無印良品の「体にフィットするクッション」
に、埋もれながらパソコンに向かっていると、上から声がしました。
「おい、なにしてんだよ、お前。いっつもそこにいるけどさー。なんか楽しいことでもあるわけ?」
「え…別に。パソコンでメールチェックしたり、写真取り込んだりしてるだけだけど、それがなにかぁ?」
あなたは、いつも奥さんにいうように、その声に答えました。
その声は、あなたのパソコンの上にある、中くらいの大きさのあひるのおもちゃからでした。
「ふーん。オレはあんま興味ないな、そういうのって。それよかでかいプールで泳いだほうが、よっぽど粋だぜ。そう思わないか?え?ほへ顔さんよー。」
「…あのさ、おれ、そりゃあ、ほへ顔だけどさ、ちゃんと名前とかあるんだけど…。」
「…。」
あなたがそんな風に言い返しても、その中くらいの大きさのあひるのおもちゃからは、今度はなにも言葉が返ってきませんでした。
あなたは今までの調子で、きっとすぐにまたちゃきちゃきの江戸っ子風に言い返されるだろうと思っていたので、ちょっと拍子抜けしてしまいました。
「なんだよ、なにも言わないのかい?」
「・・・オレさ、名前ってないんだよ…。」
「…」
あなたも思わず黙ってしまいました。
「おーい、ミドルダッキー!おーい。」
とそのとき、バスルームのほうから声がしました。
あなたは、その中くらいの大きさのあひるのおもちゃを持って、バスルームの方へ行ってみました。
すると、その声は、バスルームの中の、小さなあひるのおもちゃから聞こえていました。
「あ、ミドルダッキーだぁ。ねえねえ一緒に遊ばない?今日はここのアイス好きな彼女が、お風呂入らないって言うからさぁ。1人だとつまんないから…」
「え?ミドルダッキー?」
と思わずあなたと中くらいの大きさのあひるのおもちゃは声を揃えて聞き返しました。
「うん、きみの名前だよ。僕はリトルダッキーっていうんだぁ。」
「え?じゃあオレの名前はミドルダッキーっていうのか?誰が決めたんだよ、そんなこと。え?リトルダッキーさんとやらよう?」
とこんどは中くらいの大きさのあひるのおもちゃが言いました。
「そんなの、うちのアイス好きな彼女が言ってたからに決まるじゃーん。」
「そうなのか?じゃあいいよ、それで。」
と中くらいの大きさのあひるは不服そうにそういいましたが、あなたはミドルダッキーの、なにげにちょっとうれしそうな表情を見逃しませんでした。
おしまい
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