リトル・ダッキー

『課長の植毛』

 リトル・ダッキーはちいさなあひるのおもちゃです。
  お風呂に入って、あなたはダッキーに話しかけました。
 
「ねぇダッキー。ちょっと聞いて欲しいことがあるんだけど…」
「うん、なんでも言って」と、小さなお尻を振りながら、ダッキーはあなたのところへ泳いで来ました。
 
「あのね、課長が最近、植毛してるの」
「植毛かぁ。最近は芸能人でもやってる人が多いよね。タモさんとか、としちゃんとか、小倉さんとか…」
「小倉はカツラよ!」思わず大声を上げたあなたを見て、ダッキーはニヤッと笑いました。どうやら、ダッキーも知っててわざと言ったようです。
「それは良いんだけど…」あなたは少し恥ずかしくなって、早口で続けます。

「課長と話す時に、どうしても課長の髪の生え際に目が行ってしまうの」

「そんなにひどいのかい?」
「そんなにひどいの」と私が答えると、ダッキーは辺りを気にするように、声をひそめてこう聞きました。
「やっぱり…差したあと、腫れてる?」
私もつられて声をひそめて、
「血がにじんでる時もあるわ」と答えました。
 
  ダッキーとあなたは、そのまま黙って見詰め合いました。
 
  しばらくそうしていると笑いをかみ殺したダッキーが、プルプルと肩を震わせ始めました。
  それを見たあなたも、つられてブフッッと吹き出してしまいました。
 そして、二人はウヒョヒョヒョヒョヒョと息の続く限り、腹筋が張り裂けるほど笑い続けました。
 
「これでようやく、課長と話す時でも髪の生え際を気にせずにすむわ」
  あなたはちょっとだけダッキーに感謝しました。


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