ケータイで楽しむ超短編小説

Twitterで配信した超短編小説をまとめました。
恥ずかしい仲裁人
電車に乗ってうたた寝してたら、「ふざけんなボケ!」という怒鳴り声が聞こえたので「スミマセンでした!」と反射的に謝ったら、全然関係ないところで掴み合いの喧嘩をしそうだった二人が思わず顔を見合わせて失笑してた。
水色
「水色の水って、ほとんどないよね」「基本的に、水は透明だからね。苔が生えてたら緑。ヘドロだったらどす黒い茶色かな」「海のアオってもっと深い色だし」「紺碧の海」「じゃ、水色はどんな色?」「うーん…銭湯の壁画とか」「ペンキの色だね」「そだね」
小さいもの
豆粒みたい。と、彼女が呟いた。米粒並だね。僕が応える。針の穴みたい、と彼女。塵芥、と僕。微粒子、彼女。ウイルス、かな。えーと、原子とか?じゃ、陽子?さすがに実感ないわ、と彼女が笑った。
くしゃみの精
妖精が現れて「あなたの願いは?」と聞いた。「彼女が欲しい」「それはムリ」「不老不死」「ムリ」「じゃぁ、せめて不労所得」「ムリ」「何ならOKなの」「くしゃみ」「はぁ?」「だって私、くしゃみの精」「いらないよ」「頑張ればしゃっくりも」「ヤダ」
くしゃみのせい
「いきなりくしゃみすんなよ」「予告してくしゃみなんてできないわよ」鼻をこする長い髪の女。「でもコレどうすんだよ」「仕方ないじゃない」二人の足元には、落ちて壊れてしまった地球。
とにかくすごそう
未曽有の有象無象。森羅万象の全裸合唱。大言壮語の体験荘厳。そして、それを伝える豪快な号外。
きをつつくきつつき
きつつきはきをつつきたいからきをつつくのではなくきをつつくしかないからきをつつくのであってきをつけきをつかいつつきをつつくのがきつつきのきつつきたるゆえんでありきつつきのさがなのであります。
結婚
「満員電車の良いところ?」ストローで氷をかき回しながら男が考える。「…んー、降りたときに開放感がある」「それは、でも良いところっていうより、苦痛が去ったときの解放感でしょ」惰性でユラユラ揺れてる氷を見つめながら女がつぶやく。二人の間には、離婚届。
漢字の発明
くさやのにおいがいったいじゅうまんしたこのへやでもくもくとするめやさきいかかじるおおおとこのはなしをおおぜいでしみじみしてるとききがつくと漢字が生まれました。
キミの瞳
「歯の浮くような言葉?」グラスを片手に男は宙を見上げ、「…思いつかないなぁ」「得意でしょ、あんたそういうの」隣に座った女が耳元で囁く。「キミの瞳に、的なやつだろ?」「そう、キミの瞳は一万ボルト」「イヤ、そっちじゃなく」「あら、そう?」氷の音。
あーん、して
ものすごくかわいい女の子に「あーん、して」って笑顔で言われたから、ニタニタしながらあーんしたら、いきなりブチイィッって舌を引っこ抜かれた。最近のかわいい娘は、こぞってみんな閻魔の手先。
百八の煩悩
「人間には、百八つの煩悩がある」「はぁ?百八じゃ足りねぇよ」「でも、百八っつったら結構な数だよ」「できるもんなら百八人の女と寝てみてぇ」「そんだけやったら、まぁ確実に何かよろしくない病気をもらうだろうね」「それは確かに煩わしい悩みだねぇ」
世界一の美女
こないだ、世界一の美女とすれ違った。世界一の美女とすれ違ったんだけど、緊張して全く何も声をかけられなかったので、こんどまた世界一の美女にすれ違う時のために、なにかしら小粋な挨拶か軽いジョークでも覚えて練習しておこうと思う。
窓辺の妄想
高層ビルのオフィス。頬杖ついて、窓の外を眺めながら妄想に耽っている。思い出し笑いでニヤニヤしてたら、向かいのビルの男と目が合って、慌てて机に向かって仕事するフリ。
水ください
「水ください」「どぅしたん?のど乾いてるん?」「水ください」「サイダーか麦茶あるよ」「水ください」「あとはお茶とかお酒とか」「水ください」「なんだよ遠慮すんないな」「水くさい」
パブリックアート
拳を空に突き出す勇壮な彫刻の真向かいに、手の平を大きく広げた荘厳な銅像を建てたのは何か意図があっての事に違いない。きっと次に建てるのは、平和の象徴ピースサインをした彫像だろう。
そういう理由
高層ビルの屋上から身を乗り出し、まさに飛び降りようとした瞬間、ふと「あれ?ガス止めてきたっけ……」と心配になった。この世にはもう未練はないのだが、アパートの隣人に迷惑をかけるわけにはいかない。──彼が自殺を思いとどまったのは、そういう理由。
夢を語る
「お前の夢って何?」「え?そんな、ここでいうほどのことでもないよぉ」「いいから、いってみろって」「えぇ?ホントいうの」「はーやく」「えーと、すっごいきれいな女の子にヒザかっくんされたい」「お前、ばっかじゃねえの?…でも、その夢いいな」
きけん
│たべるなきけん│さわるなきけん│はいるなきけん│まようなきけん│まもるなきけん│まけるなきけん│がんばれきけん│あきらめるなきけん│やるだけやってみろよきけん│だからいったろやればできるじやねぇかきけん│なぁきけん│
南米のどっか
「さっき聞いたんだけど……」「んー?」「ペルーに行くってホント?」「ペルーってなんだよそれ、エクアドルだよエクアドル」「ペルーとエクアドルってそんな違うの?」「なに言ってんだよ!エクレアとパイシューくらい違うよ」「……」
きれいな石見つけた/ただの石じゃん/宝石かもよ/光ってないし/原石かも/なんの?/スターの/星?/うぅん。有名になるの/だったらいいな/うん、スターの原石 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●☆●●
間取り
「ここがキッチン」と、少女が地面に大きな四角形を描く。「こっちが玄関で、ここがバルコニー」「トイレは?」と聞くと、「いらない」と即答。「だって、お化けが入ってくるじゃない!」少女は黙々と部屋を描きこんでる。
西から
「どこから来たの?」と聞かれたので、「西の方から」と答えた。「あ、そう」と言って、彼女は東を見つめた。そこには、残像すらも飲み込む漆黒の闇が広がるばかり。
サバンナのシマウマ
彼女がヒステリックに僕を汚い言葉で罵ってる間、僕はサバンナのシマウマのことをずっと考えていた。やがて内蔵をぶちまけ、肉食獣や猛禽類の餌食となる運命を静かに受け入れようとするシマウマを。
干からびた金魚
僕が彼女と二人で公園を歩いていると、池の淵に金魚が干からびて死んでいるのが目に留まった。「真っ赤な煮干しみたい」と、彼女がハイヒールのかかとで金魚を突っつく。「君も死んだらそうなるよ」と僕は思ったけど、口に出しては言わなかった。
「雨だねぇ」と男の子が言いました。「雨じゃなくって、ただの滴」女の子が怒ったように言いました。「空も、涙を流すんかね」そう男の子が言うと、女の子は顔を伏せて泣き出しました。男の子は、女の子の震える肩を黙って見つめてました。
蟹猿合戦
あるところに、両手に鋭い凶器を持つ傍若無人な蟹がいました。猿を見つけては、暇つぶしに尻尾を切り落とす極悪非道ぶり。ある日、我が子の尻尾を切り落とされた親猿が復讐を決意し、道端で蟹を待ち構えました。その後のお話は皆さんご存知の通り。
蜘蛛の糸
天上から雲の隙間を覗き込み、釣りをしているお釈迦様がつぶやいた。「ちぇっ。また糸が切れた」
作者について
ブログ「日曜アーティストの工房」
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漱石くん
(c)TOMAKI